クラシックカメラ 今月の「ひとこと」

赤瀬川原平さんのライカⅢg

どうも。店主の早田清(はやたきよし)です。今回は、10月26日に亡くなられた作家の赤瀬川原平さんを偲んで、原平さんとウチのカメラのことをすこし話そうと思います。レアなステレオカメラ、コンチュラを原平さんが買ってくれるまでの一部始終を「ライカ同盟」(ちくま文庫)というエッセイ集のなかの「コンチュラ物語」に書いてもらってから、それ以来いろんなカメラを買ってくれました。で、そろそろ中古カメラウイルスによるカメラが欲しくなる病気もずいぶん良くなった頃に、最後のライカとして原平さんが買ってくれたのがライカⅢg。

ライカⅢg
ライカⅢg

Ⅲgは新世代のライカM3が出てるのに、旧式のバルナック型が欲しいというリクエストを受けて作られたライカ。ピント合わせとフレーミングが別になっていて、撮影枠がブライトフレームで表示される。だから軍艦部を正面から見ると四角い窓と丸い窓が合わせて4つも並んでる。このあたりが原平さんが好きになった理由じゃないかな。

距離計の対物窓
距離計の対物窓

でね、買ってもらってしばらくして原平さんが店にきてくれたんだ。ライカⅢgをしげしげと眺めていたら、写真を撮るのにピント合わせに問題はないけれど、正面からある角度で見ると距離計の対物レンズに細い縦スジが見えるって言うんだ。よく見たら、たしかに小さい丸窓の中に1本縦スジが見える。売ったときには気がつかなかったけれど対物レンズが真っ二つに割れてヒビが入っていたんだ。あるカメラが好きになって買ってみて、あとから実用には差し支えがない細かいところを気にして持ってくるのが中古カメラ好きのお客さんの典型的な行動なんだけど、原平さんも同じだったんだよね。原平さんの『すごい気にしてる』感じが伝わってきたので、預かって修理しましたよ。交換用の部品なんて手に入らないからガラスを手で削って作ったの。そりゃもう細かい作業だし時間もまるまる1日かけてずぅーと削って仕上げましたよ。

ライカⅢgボディ 10万8千円、シュタインハイル キノン50ミリF2 19万4400円
ライカⅢgボディ 10万8千円
シュタインハイル キノン50ミリF2 19万4400円

原平さんが憧れをもって手に入れてくれたライカⅢgへの気持ちを大切にしたいから、とんでもなく面倒だったけどやりとげましたね。直径にすれば数ミリしかない小さな部品ひとつで、たとえ写真を撮ることに影響がなくても気分が落ち込んだり晴れたりする。中古カメラが大好きなお客さんって、そういう人たちなの。そんな気持ちを本人も持っていたから、原平さんの書くカメラのエッセイは、とても数多くの中古カメラ好きの人たちの心に響いたんだと思いますよ。

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