珠玉の修行カメラ、ウルトラマチック。
どうも。店主の早田清(はやたきよし)です。今回のカメラは、フォクトレンダーの最高峰一眼レフ、ウルトラマチック。1962年に登場したこのカメラのどこがウルトラなのかといえば、カメラの正面にあるセレン光電池でシャッター速度優先のオート露出を実現させたこと。
それに加えて、前機種のベッサマチックではシャッターを切るとブラックアウトしていたファインダー像が、即座に復元するようになった。いわゆるクイックリターン方式のミラーですね。レンズシャッター方式でクイックリターンミラーにするのは大変なことなんだけど、それを無理矢理にやってるんだよね。
【既製品に独自の工夫を加えたシャッター】
ウルトラマチックに限らず、フォクトレンダーという会社って開発者が「オレしかできないぞ」って、のめり込んでいっちゃう。他の会社なら営業とか工場とかがダメ出しするんだろうけれど、フォクトレンダーはやっちゃうんだよね。世界最古のカメラメーカーなのに無茶するのが好き。まぁ、それだけじゃなくてレンズも凄く優秀ですよ。ホントによく写る。ゼプトンとか、いいレンズですよ。
【標準レンズ、ゼプトン 50ミリF2】
ただし、ウルトラマチックの修理をしようとすると、恐ろしく難しい修行のカメラなんですよ。これが仕上げられれば卒業です。まず、分解するときが危険で、シャッターや絞りや遮光板やミラーの開閉を一瞬でするのに使われているスチール製の駆動用ベルトがもの凄いテンションのかかったバネから外れて指先は切れる、飛んで来たビスが額に刺さる。組み上げるのに腕が3本必要なんじゃないかという難所がある。ボクが最初にウルトラマチックを直したのは1988年だったけど、実作業で25から30時間、ああでもないこうでもないと考えている時間も入れると1週間を費やしましたね。
【ウルトラマチック オーバーホール済み168,000円】
お客さんにとってもウルトラマチックは修行のカメラ。すべての動きを司っているバネは、保管時に最大のテンションがかけられている状態なので、買ったまま放置しておくとバネがダメになって不動になる。だから定期的に動かしてやらないとダメ。直すのも修行だけど、持っている人も修行しなきゃならないんです。