早田カメラ史 『懐かしの1枚』

第六十五回 赤瀬川さんと中古カメラ市

中古カメラ市にて(1995) 中古カメラ市にて(1995)

赤瀬川さんにコンチュラを買ってもらったときには、おたがいのこと知らなかったんですよ。カメラ市にいきなり現れて、そのときステレオカメラをどぉーっと並べていたんだけど、その中にコンチュラがあったの。その当時、コンチュラって日本では100万円くらいはしてたのよ。それを持って来てくれたコレクターの人に安く売ってくれって言われて30万円くらいにしていたの。

小説には29万8千円だったのを27万円におまけしてもらったって書いてある? こまかい金額は覚えていないけれど、確かカードで買ったんだよ。小説にもあるでしょ「よし、麻酔でやってしまおう」ってね。カードで払うのを麻酔って言うのはウチに来るお客さんもよく使うんだけど、赤瀬川さんの小説が元になっているんですよ。現金を持ち合わせていないから麻酔をかけて手術するの。だけど麻酔が切れると、じわじわ痛みが広がってくる(笑)。

この写真はね、麻酔でコンチュラを買ってもらった翌年か、その次のカメラショーじゃないかな。もう顔見知りって感じだからね。最初はお互いシャイだからこんな和やかな感じの写真は撮れないと思うんだよね。

それからずぅーっとの付き合いだからね。アサヒカメラの「こんなカメラに触りたい」もそうだけど、赤瀬川さんがカメラのイラストを描いていたでしょ。あのカメラは本人の持ち物だけだと足りないから、コレクターの高島さんがカメラを出してくれていたりしたんだけど、カメラが壊れていて写真が撮れないわけよ。こんなカメラに触りたいってやるのにカメラは壊れてるの。エクトラなんか全然ダメ。話になんなかったよ。

アサヒカメラがなんとかすると思っていたのかどうか知らないけれど、結局は赤瀬川さんから俺のところに相談が来るの。「ちょっと撮ろうと思ったら壊れているんで様子を見てくれますか」って。そうすると「これはダメだからウチのカメラを使いなよ」って同じカメラを持っている場合には俺のカメラを出したりしているうちにどんどん仲良しになっちゃったの。

赤瀬川さんは一人でふらっと店に来て説明を聞いて、カメラを買ってくれたよね。カメラの特徴を適当に言うとすごく喜ぶの。SEMベイビーっていうボディが真っ二つに割れてフィルムを入れるフランスのカメラを「カメラのモナカ」っていってパカッと開けたりすると面白がって買ってくれるんですよ。好きだったな、あの人。面白い人だったよ。