早田カメラ史 『懐かしの1枚』

第六十三回 ライカのミレニアムモデル

ICSミレニアムモデル(2000) ICSミレニアムモデル(2000)

これがICS(輸入カメラ協会)のミレニアムモデルだよ。こんなの店に並んでいるのを見たことがないって? そりゃそうだよ、いつもは銀行の貸金庫に預けてあるんだけど、そこから出してきたんだもの。残念だけど、これは売り物じゃないんです。

中身はね、M6TTLなの。ファインダーの倍率はM3に近い0.85。だから標準レンズのフレームが大きく見えて使いやすいの。え?35ミリのブライトフレームはM3にはないけどこれは出るのかって? もちろん35ミリのフレームも出ますよ。

西暦2000年だっていうんでICSが特別にライカに発注して200台だけ作ってもらったモデルなんですよ。その頃ってM6なんとかってモデルがいっぱい出たでしょ。だからICSでも作ってもらおうかって盛り上がったんだけど、この話は一度ボツになりかけたんだよ。

普通のM6TTLと違うのは、ツヤありのブラックペイントだということ。それとライカM3みたいな感じの巻き上げレバーで、普通のM6みたいなプラスチックの指当てがないの。巻き戻しもクランクじゃなくてM3風のノブになっている。

巻き上げレバーの下のところにICSのロゴと、限定モデルの番号が打ってある。これ何番だかわかるかな? 007ですよ。ICSのメンバーで、好きな番号を優先的に仕入れられる抽選会をしたの。それでこの番号が当たったんだよね。

このミレニアムモデルを作るとき、当時のライカの社長は変わったばかりのピーター・カーンっていう人で、2000年の時点でライカは日本法人もなくて輸入代理店が販売を仕切っていたの。まぁ、並行輸入品とかもあったけどね。いずれにしても彼が日本に来たとき、たまたまウィーンのライカショップのペーターと一緒で飲み屋かなんかにいて、来いって電話が入ったから行ったら「この人がライカの今度の社長だよ」って紹介されたんですよ。

そこでね、2000年モデルのカメラを作りたいって思ったんだけど、日本の輸入代理店からお客さんにはいくらで売ってくれって指定してきた値段があまりにも高すぎて計画が止まってるって話をしたの。そしたらピーターは「そんなことは絶対にない」って。要するにそんなに高い小売価格になるような金額でライカ社は出してないってことなんだよね。

ただし、最低のロットが156台だっていうんだよ。それ以上の数を注文してくれるのであれば、どんなモデルでも作るのがライカ社のシステムだっていうわけ。あ、そうですか、それって書面にして話をしてもいいですかって聞いたらOKだっていうわけ。それでうわぁーっとやったらばICSモデルを作る話が通っちゃったんだよね。だから、このカメラが作れたのはウィーンのペーターが役に立っている部分もあるんですよ。