早田カメラ史 『懐かしの1枚』

第四十六回 朝比奈さんのカメラ

朝比奈斌 作「セーヌを写す」(2004) 朝比奈斌 作「セーヌを写す」(2004)

これはね、セーヌ川でカメラを持って写真を撮っている人の絵なの。朝比奈さんと僕が友達になった後に、三越で個展をやるときに僕が買うことを予測して描いてくれた絵なんだよね。だいたい、カメラを構えている人の絵ってあまりないでしょ。これは買うしかないって思ったし「やっぱり買ってくれましたね」って朝比奈さんも言ってくれたんだよね。

パリのパッサージュにあったフォトベルドーの絵は、この絵の前の年に買ったの。あのカメラ屋には朝比奈さんと一緒に年がら年中行ってましたよ。結構いいものがいっぱいあったんだよね。フォトベルドーをやっていたレジスっていう男はパリからちょっと離れたところにあるカメラ屋の息子だったの。朝比奈さんはパリ中のカメラ屋さんの事情を知ってるから「ここはすごいよ」って連れて行ってくれるし、通訳もしてくれるんだよ。

こっちはバスティーユから歩いて行って待ち合わせをして、だいたい丸一日ずっと朝比奈さんが付き添ってくれるんだよ。フォトベルドーを振り出しにしてボーマルシェに沢山あったカメラ屋に行くの。そのうち半分趣味みたいな感じでカメラのブローカーをしているリュックを紹介してくれたの。それからリュックとは毎年レアルの定宿で会って、カメラの仕入れをしているんだよ。コロナになってから2年も会えないでいるけどね。

朝比奈さんにはすごい世話になってるの。だから日本で個展やったら絶対1枚は買うの。僕は物凄く価値のある絵だと思うよ。最後に買ったのは店の正面に飾ってある焼ける前のノートルダム寺院。コロナ前にパリに最後に行ったのは11月だったけど、燃えた後のノートルダムに久しぶりに行ってきましたよ。クリスマス前の時期で寒くて誰もいなかったけどね(笑)。

それでね、朝比奈さんのカメラのコレクションってすごいんだよ。ベイビーSEMとか、ちっちゃくて可愛いフランス製のカメラが大好きでね。レンズはフランスのアンジェニューのライカマウントのレンズを沢山持ってるんだよね。本来アンジェニューのライカマウントは真っ黒なんだけど、そうじゃない縞模様の最終バージョンっていうのが30本だけあるんだけど、そんなのとかを見せてくれるの。

あとは変なのが好きなんだよね。ライカが販売店のディスプレイ用に作った手の形をしていてその上にライカが乗る展示台とか持ってるし(笑)。もっとすごいのはライカ用のエルメスのケースだね。これは話が長くなるからまた今度ね。