早田カメラ史 『懐かしの1枚』

第四十五回 パリのフォトベルドー

朝比奈斌 作(2003) 朝比奈斌 作(2003)

パリのパッサージュって行ったことある? すごく古い時代のガラス屋根のあるアーケード街なんだけど、この絵にはパッサージュにあったフォトベルドーっていうカメラ屋さんが描いてあるの。よく見るとカメラの看板があって、ケースの中を覗き込んでる人もいるんだよ。これはね、家の2階に飾ってあるの。

この絵を描いたのは、パリに住んでいる朝比奈さんだよ。朝比奈さんは僕らが行くようになる前から何十年もパリにいた人なの。そもそも僕はドイツ語しか喋れなかったし英語があんまり得意じゃなかったから、パリはとりあえず遊びに行ったっていう雰囲気だったのよ。行く前にお客で乗り鉄のお爺さんから「こういうカメラ屋がある」ってメモをもらったから、どんなんだか行ってみようって。その頃はまだパリのボーマルシェとかにカメラ屋さんがいっぱいあったんだよ。

それでね、メゾン・ド・ライカだったかオデオンだったか忘れちゃったけど、店の中でこっちは目の色変えてフランス製のフォカとか、それより珍しいカメラとかを見つけて「これがそうか!」ってやっていたら朝比奈さんがひょっと現れて「早田さんですよね」って聞いてきたの。「あ、はい」「あなたの出ている本を読んでますよ、何とかかんとか」ってやりとりして、それだけで僕は日本に帰ったの。何しろ目の前のカメラに夢中だったから。それが朝比奈さんとの出会いだね。

そうしたら、後から朝比奈さんから手紙が来たの。この間パリでお会いした朝比奈です。もしまたパリにいらっしゃるんでしたら、ぼくがフランス語の通訳をします。って書いてあって、それから連絡をとって、ミュンヘンとウィーンだけじゃなく、ロンドンに行ってパリにも行くルートができたんだよ。今はコロナでヨーロッパに行けなくなっちゃっているけど、コロナになる前までは、事前に朝比奈さんに電話で連絡してね。そうすると来てくれるの。

朝比奈さんも、年に2回は日本に来て個展をしていたんだけどずっと来られなくてね。それで今週、2年ぶりにフランスから日本に戻ってきたんだよ。でも入国後の2週間は検疫期間とかで自宅待機で誰にも会えないの。だから、3週間の滞在予定なんだけど動けるのは1週間だって。忙しいとは思うけど、とりあえず会えたらいいなと思ってますよ。