早田カメラ史 『懐かしの1枚』

第四十七回 朝比奈さん、二年ぶりの訪日

早田カメラ店内にて(2021) 早田カメラ店内にて(2021)

この前、すごく久しぶりに朝比奈さんが店に来てくれたの。左が朝比奈さんで、だっこされてるのはロモです。朝比奈さんはずっとパリで生活していて、世界中がコロナで大騒ぎになる前には半年に1回は日本に戻ってくるサイクルだったの。それがロックダウンだとか渡航制限だとかになっちゃって奥さんの実家の敷地内に立てている家が2年も誰もいない状態になっていたから大変だったって。でも隔離期間の2週間は外出しちゃいけないので、家の中の片付けがずいぶん進んだみたい。

それでね、朝比奈さんのカメラのコレクションのうち、一番すごいのはライカ用のエルメスのケースだっていう話をしていなかったよね。バルナック時代のライカのケースでエルメスが作ったやつがあるんですよ。ある日、朝比奈さんがいつものようにパリの蚤の市か何かであれこれ見ていたら、ライカのケースがぶわっと置いてあったっていうの。その中のひとつを手にしたらHELMESって書いてあったんだって。ケースの山にエルメスが埋もれてたんだね。しかも2つあったんだって。

「お、これはエルメスじゃん」と朝比奈さんは思ったんだけど、黙ってその刻印がある2つを手にして、普通に中古のケースを探している人のふりをして「まけて」って言ったんだって。「ダメだよ」「じゃあこの値段のままで」ってやりとりして手に入れたの。

売ってる人がエルメスだってわかっていたら全然値段が違うって。どこでエルメスってわかるかって? あのね、カメラのケースを閉める金具のボディ側のパチッって受ける方の上のあたりの革の部分に、エルメスってすごく小さく入ってるの。ハッハーン。みたいな場所ですよ(笑)。パカっと開けるとわかるんだけど、開けない限りわかんないの。普通のライカのケースと同じように見えるんだけれど、違うんだよね。俺も見せてもらった時はね、あ、あるんだ。そんなに珍しいものじゃないんだって思ったの。ほら、朝比奈さんが2つ持っていたから。でもね、あれっきりだね、朝比奈さんの探し出したもの以外を見たことない。それくらいレアなんですよ。

それでね、そのライカのケースはちょこっとほつれているところがあったんだって。それを朝比奈さんはエルメスのパリ本店に修理に持って行ったの。そうしたらエルメスは「間違いなく私どもが作ったものです」って直してくれたんだって。すごいよね。しかも、修理代がいくらだと思う? タダだったんだって。もうびっくりでしょ。修理を頼んだ時点で作ってから50年も60年も経っているにもかかわらず、エルメスのものであるからタダなの。エルメスってすごいよね。