早田カメラ史 『懐かしの1枚』

第四十回 チヨミさんって誰だ?

ロンドンのレストランにて(1994) ロンドンのレストランにて(1994)

ヨーロッパでカメラを探し始めてしばらくは、ミュンヘンに行ってウィーンに行って帰ってくる。みたいな感じだったの。だけど、それだけじゃなくてロンドンとかパリにも行くようになったのね。ポートベローの蚤の市に通うようになったのは、イギリスに行くようになってちょっと経ってからだね。この写真の人がチヨミさんだよ。ロンドンではいつもチヨミさんが一緒に行ってくれるの。

チヨミさんはね、高木さんの姪っ子。高木さんって誰だって? 高木さんはね、日本食のシェフで和食の有名店にいたんだけど、駐英国大使に頼まれて大使館の料理人として引っこ抜かれて連れてこられちゃった人なの。逆にいうとイギリスに行きたくて来たわけじゃないのよ。駐英国大使って着任するときにシェフを決めて食事のことを任せるらしいのね。英国大使が日本に帰った後にはシェフも普通は日本に戻るんだけど、結局高木さんはイギリスに残っちゃったの。それで日本料理店を始めたんだよね。その頃のイギリスの日本料理ってデタラメだったから、それを何とかしたいという気持ちもあったんだろうね。高木さんのところの日本料理は本当に美味しかったけど、よそで食べると涙が出るほど不味かったよね。

高木さんは職人だからあまり英語が得意じゃないの。だけど姪っ子のチヨミさんは日本で大学を出てからロンドンだかケンブリッジだかの大学も卒業しているもんだから英語ペラペラでね、最初の頃は高木さんにくっついてきてくれてたんだよね。それでお金が足りなくなるとチヨミさんが小切手を持っているんで借りたりしてたの。チヨミさんは高木さんと一緒にいて、日本料理のマネジメントを全部覚えたんだよ。英語ペラペラで、しかもロンドンの日本食のことを全部知ってるわけだから、そのままイギリスに残って永住権も取っちゃった。すごい面白い人ですよ。たぶん、今もコベントガーデンのお寿司屋さんに勤めてると思うよ。

それでさ、ロンドンに来たらせっかくだからフィッシュ&チップスを食べたいって思うじゃない。道端とかで売ってるし。そしたら千葉ちゃんに散々言われたの。『早田さん、その辺で食べちゃダメですよ、絶対にお腹を壊しますから』って。油がね、ずぅーっと使い続けているから古いんだって。僕らのお腹じゃもたないの。だから屋台で食べちゃいけないから、何回かロンドンに行った後にちゃんとしたレストランでフィッシュ&チップスを食べてるところを撮ったのがこの写真だね。千葉ちゃんっていうのは、高木さんを紹介してくれた人で、その頃はロンドンに住んでいたんだよね。