早田カメラ史 『懐かしの1枚』

第三十六回 アメリカ大使からの感謝状

感謝状と大使館での記念写真(2004) 感謝状と大使館での記念写真(2004)

これはアメリカ大使からの感謝状。下の写真は感謝祭で招待された時にアメリカ大使公邸で撮ってもらったものですよ。何が書いてあるかっていうと、『コダックスーパー620を修理してくれてありがとう。これで自分の自慢のコレクションに加えられるし、どんなふうに壊れていて、どう直してくれたか説明してくれたから、コレクションとしての価値が上がった』ってタイプしてあってサインがあるね。下の方には『もし、コーティング付きのスーパーイコンタA型を見つけたら、欲しいんだけど』って、ちゃっかりお願いもしてる(笑)。ベーカーさんは、本当にカメラが大好きだったんだよ。

修理してあげたカメラはエクトラ2じゃなかったのかって? もちろんエクトラ2は修理しましたよ。ちゃんと動くようにしてあげて修理代は幾らだったか忘れたけどもらって、返したの。そしたら彼が『エクトラ1と2ではどこがどんな風に違うのか?』って聞いてきたの。まぁ、ちびっと違うところもあるけどねって言ったら『その違うところを教えろ』って訳よ。もうレポートだよ。エクトラの時は大変だったのよ。たいがいアメリカ人って、壊れているものが動くようになればそれでいいんだけど、ベーカーさんはそんな性格じゃないの。なんでエクトラが4千台近く売れたにもかかわらずエクトラ2を作ったのか? そして、どこが違うのかを知りたいって言うわけよ。

それで俺がここがこうこうで、こうなってそれでもってと細かくズゥーーっとね、全部書いたの、日本語で。なぜかって言うと通訳の山本フジ子さんが『大丈夫です。翻訳部がありますから全部日本語で書いていただいてOKです』って言うから日本語で書いて渡したの。そしたらね、その翻訳部から年がら年中電話がかかってきて『すいません、ここの部分をどうやって英語に訳したらいいんでしょう?』って。カメラの中身の専門用語だからわかんないの。でも、ちゃんとしたレポートにして渡したみたいよ。

それで彼は納得してすごい!って言って、その後に欲しいって言ったのがスーパーコダック620だったの。エクトラもすごいけど620もすごいカメラだと思っていたと。で、ぜひコダック620のカメラの秘密とかも知りたいので手に入れてくれって彼が欲しがったの。だけど日本には殆どないし、全部で700台しか作っていないカメラだから難しいなと思っていたら、お客のFさんが3台も持ってたの。3台のうち1台は全然直らない状態で、もうジャンク状態だったけど『これなら早田さん譲ってあげてもいいですよ』って言ってきたの。それを俺は完璧に直したの。そうしたらベーカーさんがコダック620の秘密、なぜ700台だけ作ってヤメたのかを教えてくれって言い出してこれが大変だったのよ。何がまずいかも全部書いてどうしてダメだかも書いて、620のフィルムも使えるようにして渡して、これで写るようにしたよって渡したんですよ。それで感謝状をもらったの。

俺が作ってあげた620のフィルム10本とコダックスーパー620を持って、ベーカーさんはフロリダに行って向こうで倒れちゃったの。結局は日本に帰れなくなって、次の駐日大使と交代しちゃった。だから、あのカメラで写真を撮ってくれたかどうかは、残念ながらわからないんですよ。