早田カメラ史 『懐かしの1枚』

第三十五回 ベーカーさんとエクトラ2

アメリカ大使館のカレンダー(2005) アメリカ大使館のカレンダー(2005)

これはベーカーさんが送ってくれたアメリカ大使館のカレンダーの最後のページ。これに載ってる日本とか世界のいろんな場所で撮ったキレイな写真は、全部ベーカーさんが撮影したものなんだよ。ベーカーさんは第二次世界大戦で戦闘機に乗っていて、硫黄島で落とされてるんだよね。それで足の具合がおかしくなって、引きずって一生を過ごしていたの。で、日本の大使になったときに硫黄島に行ってるんだよね。「俺はここで落ちて一度死んでるんだ」みたいな。それはそれとして、写真は上手だよ。中学時代から写真が趣味だったらしくて、本当に上手。で、このエクトラを構えている本人の写真を撮ったのは、チバちゃんだよ。

チバちゃんは、うちのお客さんだけど英語バリバリだからね。英国大使でカメラ好きの林さん(第二十回に登場)を紹介してくれたのもチバちゃん。うちには面白いお客さんが多いからね。それでね、ベーカーさんの写真の上に置いてあるエクトラ2は本人のじゃないの。だって修理して持って帰っちゃったから。これはもともとうちのお客さんで、随分前から経理を担当してくれている税理士のヨシヤ(第三十二回に登場)のカメラなの。ベーカーさんのは製造番号入りの2台のうちの1台だったけど、これは4台あるプロトタイプのうちの1台ですよ。

ファインダーのマスクとか全然違うでしょ。ベーカーさんがエクトラ2を手に入れたのとほとんど同じような時期にヨシヤがすごい興味を持ってeベイを見ていたら出てきたんだよ。値段もだいたい同じで。とにかく世の中に6台しかないカメラだからエイヤッ!と入札したわけね。彼はいつもレアなレンズとかカメラをeベイで手に入れようとして失敗していて、ネットオークション詐欺で金だけ取られて終わるパターンが多かったんだけど、エクトラ2は本物が来ちゃったの。でもね、完全に壊れてて、どうしようもなかった(笑)。

ベーカーさんのエクトラ2に話を戻すけど、アサヒカメラだったか週刊朝日にエクトラ2で撮った皇居の写真が載ったの知ってる? その撮影の当日に電話がかかってきてさ、「早田さん、これから皇居に来ていただけないですか」って。ちょうど定休日の夏の暑っい日。こっちは前の日に飲みすぎてベロンベロンの二日酔いなのに呼び出されてさ、あれは本当にひどかったよ。これから撮影だけど、カメラが壊れた時に困るから早田を呼べってなって俺は皇居まで行ったの。それでベーカーさんに直接「壊れねぇバカヤロウ。俺が直したんだから20年は動くんだよ。お前の寿命よりも長い。だから20年保証するよ」ってバチっと言ったわけよ。それをベーカーさんはすごい気に入ったみたい。

それで、大使公邸に招待されて、賞状ももらったの。