早田カメラ史 『懐かしの1枚』

第三十四回 幻のカメラ、エクトラ2

年末ご挨拶とエクトラ2(2004) 年末ご挨拶とエクトラ2(2004)

これはベーカーさんのエクトラ2を修理した年の暮れにきた年末のご挨拶。ハワード・ベーカーさんはね、600台くらいのすごい数のカメラを持ってたんだけど、アメリカ議会の上院院内総務という重要な役職になったとき全部処分して仕事に専念してきたの。そのあとレーガン大統領の首席補佐官とかもして、ブッシュ大統領、息子の方の時代に駐日大使として日本に来るのよ。その時はいわゆる半分隠居みたいなもんなの。要するに暇なもんだからまたカメラを集め始めたらしいの。

ある日ベーカーさんがeベイ見てたらエクトラ2が出てたわけ。それで入札しちゃったの。値段がいくらかっていうと84万か86万だったって。彼しか入れなかったけどね、何しろ落ちたんだよ。それでeベイから日本に送られてきたら、全く動きません。全然ダメです。みたいのが来ちゃったわけ。それで駐日大使だから日本コダックに「こう言うわけでコダック・エクトラ2を買ったんだけど壊れてるんだ。直せ」と連絡させたんだね。

そうしたら当時の日本コダックの社長さんが僕と知り合いだったのよ。それで「これは絶対ウチでは直せない。日本で修理できるとしたら早田しかいない」って言って俺のことを指名したの。日本コダックの社長さんとは、だいぶ前にどっかで会ってるのよ。ただ、よく覚えていないの。たぶん挨拶したのはドイツ大使館がオクトーバーフェストをホテル貸し切りでやったときじゃないかと思う。あのときは夜中の2時まで飲み続けてたからね。

それでね、いきなりベーカーさんがSPを9人も連れてきて、サングラスかけたやつが集まってウァーッと店の周りにあちこちいるんですよ。911のあとだからもうドバーッといっぱい連れてきたの。「きやがった」みたいな(笑)。日本人のSPも一人いて、ベーカーさんの通訳の山本フジ子さんと一緒に店に入ってきた。その次からは日本のSPと運転手と通訳の人しか来なかったけどね。馬道通りのコンビニ・ポプラの前に大使館の黒塗りの車を止めてたよ。

まあ、要するに「このカメラは直るか?」ってエクトラ2を持ってきたわけよ。

「直りますよ、こんなもの。大丈夫ですよ」って言ったらね、通訳の山本フジ子さんが「彼はこのカメラの意味がわかっていない。大丈夫か?」と言ってくるから「わかかるも何もエクトラでしょ?」って返したら「エクトラじゃないんだよ、エクトラ2なんだ!」ってすごい剣幕なの。それでカメラを見て「なるほど2って書いてあるね」って言って、大丈夫だからと修理を受けたの。エクトラ2はその時に初めて見たんだけど、別にエクトラじゃん。って思ったの。

ちなみにエクトラ2ってのは総生産台数が6台です。そのうち4台がプロトタイプで全部バージョンが違うの。コダックは当時いろんなこと考えてたわけ。こうしよう、ああしよう、モータードライブつけようとかってプロトタイプが4種類あるの。それで、とりあえず売ってみようっていうのが2台あるのよ。ボディ番号を打ってあるのが。そのうちの1個がベーカーさんが手に入れたエクトラ2で、もう1個はどこにあるんだか分かんないの。

このカメラがエクトラ2ですよ。でもね、これはベーカーさんのじゃないんだよね。