早田カメラ史 『懐かしの1枚』

第二十九回 ウィーンのハンネス

ハンネス(1991) ハンネス(1991)

ヴェネチアで撮った写真をくれたリンツのシュトラッサーさんと知り合いになったのは、ハンネスって男に紹介されたのがキッカケだったって言ったじゃない。これがそのハンネスですよ。彼は後にウィーンのライカショップに勤めるんだけど、その前から知り合いだったの。知り合ったのは偶然みたいな感じかな。オーストリアの国内に何軒かあるエリザベス・ソイカっていう店があって、小さいカメラ屋さんでDPEもやってた。そこがたまたまウィーン市内からホテルに帰るちょうど中継点のところにあったんだよね。

その頃は、郊外のホイリゲっていうワインを作ってるところに泊まれる、チロリン村みたいなところがオーストリアでの定宿だったの。ウィーンにいた井口先生に初めて連れて行ってもらったのが1987年だからずいぶん昔のことだよね。そのホイリゲに宿を取っていたからウィーンから郊外へS バーンで向かうんだけど、その駅前にエリザベス・ソイカの支店があったの。

あ、カメラ屋だっていうんで店の中に入ってみると、ちょこちょこやってるけどそんなに品物を並べて売っている感じじゃなかったんだよ。そこにいたのがハンネスってやつで、その店の番頭をしていたの。こっちが東京でカメラ屋をやっていることを伝えて、話をしてみるとカメラに詳しいのよ。カメラはチビィーッとしかなかったけど、僕がいいものを買うわけ。これ買うよ、それも買うよって毎年ウィーンに来ると挨拶がてら寄るもんだから、何回かやっているうちに「今度来たら何か用意しておくよ」みたいな感じで仲良くなったんだよね。

ちなみに、エリザベス・ソイカのって、ウィーンのシュテファンスドーム前にもあったんだよね。シュテファン大聖堂、知ってる? 日本で例えるなら法隆寺の真ん前にカメラ屋があるみたいな(笑)。そこはクラシックカメラに強い店だったけど、今は残念ながらお土産物店になってます。

それでね、シュトラッサーさんのことを紹介してくれたのが、その支店にいたハンネスなの。彼によると、ヨーロッパフォードの副社長であるシュトラッサー氏が近々退職する。それに当たって家の中にあるカメラを処分しろと奥さんが言っているんだって。それまでハンネスからもそうだけど、シュトラッサーさんはいろんなところでクラシックカメラを買いまくっていた、超強大なコレクターだったらしいんだよ。ライカショップに勤めていて、独立して今はその向かいにカメラ31って店を出してるフランツがライカショップに引き抜かれる前に勤めていたオラーターにもシュトラッサーさんはしょっちゅう来てはカメラを買ってそうだから、みんな知ってたみたいだよ。