早田カメラ史 『懐かしの1枚』

第二十三回 ポメラニアンのメリー

早田カメラにて(1981) 早田カメラにて(1981)

この写真を撮ったのは、第二十一回に出てきた時事通信の中田さん。だってバッチリ視線がきてるでしょ。中田さんの写真は人だって犬だって全部視線がきてるんだよね。左にいる女の子は隣にあったお蕎麦屋さんの子で、抱っこされてるのがメリー、右端は第二十一回でチャッピーと一緒に写っていた長女のトモちゃん。真ん中がドイツにお嫁に行ったヒサコ。この時点でメリーは9歳になってるんだけど、それまでウチにはいなかったんですよ。

メリーが来るちょっと前に、チャッピーが死んじゃったの。それでウチのカメラを買ってくれるお客さんにポメラニアンのケンネルでは有名なところの人がいてね、「おたく、犬が死んだんだよね。じゃぁ」ってパッと持ってきたのがメリーだったんだけど、本当にもうボロボロで、こんなクソ犬を何で持ってきたんだってくらいスゴイ犬だったのよ。歯石はひどいし毛は抜けてるし痩せてるしで可哀想な状態だったの。

昔はポメラニアンって、水商売の人がよく飼っていた犬で、浅草の芸者さんとかそういう人たちに売ってたの。他の種類の犬みたいに8頭9頭を産むんじゃなくて、普通は1頭か2頭しか産まないから希少価値があって利益率が高い犬だったんだね。そうしてメリーは9年間も繁殖犬として頑張ってきたわけ。だからもうボロボロで、要するに死ぬ前に俺のところに持ってきて面倒見てやってくれ。みたいなものだったのよ。

だから、可哀想だから俺が死ぬ前に歯石とりから何から全部手入れしてあげたわけ。ずっと犬屋さんにいたから何も教えられていなかったけど、頭のいい子でお座りとかお手とか全部覚えたよ。本当にいい子だった。そうしてめちゃめちゃ真剣に手入れしたら3ヶ月もしないうちにめちゃめちゃキレイになって、可愛くなったの。この写真は、もう可愛くなってから撮ったものですよ。

そうしたら、もう一回子供ができるかもしれないって繁殖家が調子に乗りやがって、超高い雄犬のポメラニアンを連れてきて種付けしちゃったのよ。メリーは9年間ぶっ通しで子犬を産んでいたから、付けられると子供を産むもんだって感じだったよ。「妊娠中の最後の方は食欲が落ちるから牛の生肉をあげてください。きっと元気になりますから。」とか言われたんで、バンバン食わしていたらお腹もどんどん大きくなったの。

それで、いよいよ明日か明後日ですねと言われた次の朝、起きて1階に降りて行ったら床の上がウンコだらけ。ようするに想像妊娠だったの。メリーは産んだつもりになっていたけど、結局は出てきたのは子犬じゃなくてウンコだけになって終わったんだよね(笑)。