早田カメラ史 『懐かしの1枚』

第二十二回 迷犬チャッピー

早田カメラにて(1979) 早田カメラにて(1979)

この子の名前はチャッピー。その前に飼ってたハッピーは12歳で死んじゃったの。スピッツの雑種でした。この連載の第一回の写真に出てるでしょ。あの子はすごく頭が良かった。死んじゃったのが悲しくて寂しくてね、しばらく犬はいいやって思ってたの。だけど、店の前に浮浪者の人が寝るんだよね。店が開けられないから警察を呼んでどかしてもらったこともあった。雨風が避けられるから軒下で寝ちゃうの。だけど犬がいると吠えるから絶対に寝ないんだよ。だから犬がいないとダメだなってなっていたところに来たのがチャッピーなの。

この子は、元々は迷子だったのよ。年の瀬に迷っているのを救世軍に引き取られてね、小隊に柴犬の迷子がいるんだけどって話がたまたま入ってきてね、それでもらってきたの。その頃はまだうちに子供がいなかったから、いつも一緒に行動してたんですよ。店から少し離れたところに駐車場を借りていたんだけど、そこからスバルのレオーネで出てくると、店の近くの中村屋の角を曲がるくらいのところでもう分かるんだって。ドアを開けたら自分で乗ってさ、窓から顔だして外の様子を見たりして可愛いの。

千葉の九十九里浜に連れて行ったこともあるんだけど、興奮してドドーッと波打ち際まで走っていくんだけど、ヒューって戻ってくるの。行ったり来たりするばかりで怖がって海に入らないんだよね。海水は犬に良くないっていうんで真水で洗ってやるのにバケツまで持って行ったんだけどさ、それを使うこともなくさっさと帰って来ました。いろんなところに連れて行ったのを思い出すなぁ。

チャッピーは花火が大嫌いでね、隅田川の花火大会でドン!ドン!と音がしだすと、おしっこは漏らすし震えるし大変だった。たぶん迷子になっている時に嫌な思いをしたんだね。柴犬は特に大きな音はダメみたい。それと大好きな人が来るとちびっちゃうんだよね。その頃は浅草には「髪結いばぁば」が朝になると来るの。それで、一軒づつ家を回って日本髪を結ってくれるの。そういう商売があったんだよ。うちのバァちゃんも日本髪だったから世話になってたんだよ。バァちゃんは夜中に現像の仕事とかしていたから起きて来るのは遅くてね、昼近くに髪結いばぁばが来るんだけど、それを見るとチャッピーはおしっこ漏らしちゃうの。

可愛かったよ。本当にいい子だった。バカだけど(笑)。それとね、お客さんにもよく噛みついてたね。最低でも20人はやられてるんですよ。危ないですよ噛みますよって言ってるんだけど、特に女に人なんかがね「カワイイー」て手を出した瞬間にガブッと。でも噛まれたお客さんで、それからすぐに「あんまりカワイイから私柴犬飼い始めました」っていう人もいたよ。