早田カメラ史 『懐かしの1枚』

第二十回 駐英大使と中古カメラを買う

イギリスのカメラフェアにて(1998) イギリスのカメラフェアにて(1998)

この写真は、イギリスで毎週日曜日にやっていたカメラフェアで撮ったもの。一緒に写っているのは、当時の在英大使の林さん。ヨーロッパでカメラを買うのはドイツとかフランスとかオーストリアで、あんまりイギリスには興味がなかったのよ。だけど千葉くんがカメラフェアがあるんだよって話をしてくれたのがそもそもの始まり。千葉くんはね、最初のアルパフレックスの前のモデルから最後の11siまで全部持ってる本当のアルパコレクター。で、アルパを当時治せるのは僕しかいなかった。そんなこんなで付き合いがあって、千葉くんは日本の銀行で外国為替の係をやっていて、あいつ英語がペラペラだから成績が上がっていってロンドン支店の外国為替の部長になるんですよ。

で、出向先のロンドンはカメラフェア天国で、毎週日曜にはどこかで必ずカメラフェアをやってるからしょっちゅう行ってたの。そうしたら、たまたま林さんと知り合うことになったんだよ。「日本の方ですね」「そうです」ってやっていたら相手はなんと在英大使だとわかってビックリ。でも気さくな人なんで仲良しになったわけ。林大使は雑誌なんかで見て僕のことを知っていて、自分のカメラを早田さんに修理してもらいたいという話が出た時に千葉くんが「早田さんは僕の友達ですよ」となって、まずは駐英国大使公邸にランチを食べに来てくださいと招待されたんですよ。

本当にビックリだよね。公邸に入ると来賓にサインさせるんですよ。しょうがないから記帳しようとしたら前の人は東大の名誉教授とか何とか偉い人ばっかり。ここに台東区浅草2丁目のカメラ屋、早田清って書いていいのかな?って思ったくらいスゴイ。でも書きましたよ。あれに記帳するとどうなるか? 次の大使はそれを全部見るんですよ。だもんだから今でも在英大使公邸に行けば「あ、早田さんですね」と言われるんだよね。もう行くことはないけど、それくらいスゴイことなの。何しろ在英大使は外務省でトップを経験した人が、天皇陛下と総理大臣に任命されてなるんだからね。

そんな林大使がね、朝の6時前とかにホテルに迎えに来てくれて、郊外のカメラフェアの会場まで連れて行ってくれるんですよ。もう本当にキ●ガイみたいにカメラが好きなんだよね。林さんはほとんど毎週のようにカメラフェアに通っていたから出店している人たちに「彼は日本の大使だよね」ってばれちゃってるの。何しろ車が外交官ナンバーだからね。本人は知らんツラしてカメラを値切ったりしているんだよ。しかも50万円とか30万円のカメラを値切るならわかるよ。それが5千円とか8千円のカメラだからね。変わった人なんだ。僕がカメラを買うのにスゴイ興味があってね、その後に僕が買ったベビーシビルとか、同じカメラを何個か買いましたって教えてくれたよ。