第七十八回 コウタとツヨシ

建て替える前の早田カメラの壁って、隣の蕎麦屋と一緒でつながっている作りだったのを知ってる? そんなこと知らないよね。それでね、蕎麦粉とかが置いてあるもんだからあそこの裏なんてネズミだらけだったの。だからネズミが出てしょうがなかったんだよ。頭の上にぽこっと、こんなにちっこい子ネズミが落っこってきたこともあるんだから。
カメラの修理をしている時じゃないよ。2階で普通に寝ている時だよ。それで思わず「ぎゃぁ〜っ!」って叫んだね。そうしたらその子ネズミは3階の方に行っちゃったの。昔の家はどこもかしこも穴だらけだったからね。それで何しろ嫌だったし、ちょうどネコが嫌いな婆ぁちゃんがお姉さんの家に行っちゃったんで、とりあえずネコを飼おうってことになったの。
それでね、長女のトモヨの友達のお母さんが大きな犬3匹と猫を飼っていて、人慣れしているからいいやって日本堤の方からもらってきたの。やっぱり人馴れしているから可愛かったんだよね。それがコウタ。犬と一緒に育った猫だから犬と一緒でも平気なのよ。その頃はウチにポメラニアンのルーリーがいたからね。犬が嫌いな猫が来ちゃうとまずいじゃん。コウタは犬のことなんて何とも思っていなかったからOKなのよ。
それでね、いざネズミがでてきたら全然ダメなの。コウタのやつ、ネズミと睨めっこしてるだけなの。階段のところにネズミがいてさ、「コウタいけ!」ってやっても「お前は何?」って感じでじぃ〜っと見てるだけなの。全然ダメだったね。もうまるでダメ。コウタはネズミをやっつけないんだよ。あいつは自分を人間だと思っていたのかもしれないよね。
次のツヨシは、ネズミはガブッ!なの。ツヨシはコウタの後に次女のマナミがもらってきたの。アメショーみたいな野良猫ね。ツヨシはさ、ネズミを獲ると俺たちの枕元に持ってきたということはないんだけど、昼間に2階でドタバタ暴れてると思って上がっていって電気を付けたら部屋のど真ん中にネズミが死んでるの。やっつけていたみたい。結構大きいネズミだったよ。
ツヨシとコウタは一緒に暮らしていたんだけど、よくネズミを獲ったのがツヨシ、面白かったのはコウタね。あいつは店のシャッターがちょこっとだけ開けてあると、そこに手を突っ込んでから身を翻してぐぅ〜っと押し上げて出ていっちゃうの。店の取材に来ていたテレビの人がその話を聞いてね、別の動物番組の人がわざわざ取材に来てくれたんだけど、そんな時に限ってシャッターを開けないの。まあコウタはネズミは嫌いだけど面白いネコでしたよ。
次回予告
髪結ばあばと三社祭
