早田カメラ史 『懐かしの1枚』

第五十五回 バイク事故とN村病院

骨折したのはロモだけど俺も‥(1992) 骨折したのはロモだけど俺も‥(1992)

うちのロモがシャンプー台の上から飛び降りちゃったはずみで骨折していたの。これは早田カメラ2022年の10大ニュースに入るね。ギブスが取れるまで思っていた以上に時間がかかって可哀想だったよ。でももう大丈夫。今は元気に階段の登り降りも散歩もしてますよ。ところで俺が骨折したことあるかって? ないよ。でも、骨折したことにされたことはあったんだよね。

あれは1992年だったかな。ヨーロッパに行く1週間前に50ccの原付バイクに乗って墨田区の八広にある大きなゴルフ練習場に向かっていたの。そうしたらクルマが駐車場からヒョコッと出てきて、こっちが止まった途端にボコンとぶつけられて倒れたの。バイクが壊れるほどでもなくてパタンと転んだだけなんだけど、左足が痛くなって救急車で運ばれたんだよ。それで最初に向かった病院は、外科の先生が手術中で診られませんって断られたの。

それで救急車の人がね「じゃあ、これくらいの怪我ならN村病院でいいか」って言ったもんで、意味がわからないままN村病院に運び込まれたんだよね。そこの院長先生が出てきて何をしたと思う? 血液をチュッ!と採って、カッ!とシャーレに入れたのをパッ!と見ただけで「はい、骨折。重症!」だって。まだレントゲンも何も撮ってないんだよ。

そうしたら警察の人が「はい、重症ですね」って何かの書類に書き込んで帰っちゃったのよ。あのN村病院には気をつけた方がいいね。こっちは来週にはヨーロッパに行こうとしてるのに、検査は次の日だったの。骨折だからレントゲンを撮ったのよ。全部で15枚ですよ。そんだけ撮ったけど骨折してないわけ。フィルム見て「うーん、骨折かもしれない」って、そりゃダメでしょ。運び込まれた時にすぐにグルグル巻きで石膏で固められちゃってるんだけど、警察病院からたまたま出張で来ていた人が、やっとヒビのようなものを見つけたんだよね。

でも、ギブスで固めるほどのことでもないから可哀想だっていうんで外してくれたの。何ともないのに巻きつけられたから、もう足が真っ赤になっちゃってたよ。そこの病院は足が折れている人とかが入っているのにトイレが和式でね、テレビも1時間100円なの。だから様子を見に来てくれた人にみんなから100円もらってテレビを見ていたんだよね。体温計もガラスのやつでね、落っことしちゃったら「500円になります」だって。100円玉がいっぱいあったから、そこから渡したよ。

そもそも病室の入り口のところにラーメン屋とか蕎麦屋の出前のメニューが置いてあったりして、これは病院なのかというすごいところだったよね。それでね、保険屋に知り合いがいたんだけど、その人が言うには健康保険で払うって言えってことなので看護婦さんにそう伝えたら「先生!!この人健康保険で払うんですって!」って大声出されてね。そうしたら翌日に退院してくださいってなったの。要するに交通事故だといくらでも請求できるようなもんだけど、健康保険になると病院から請求できる額がガクッと減るから出てってくれなのね。それですぐに出て行きましたよ。

その病院はね、同じ階にいたおじさんなんかさ、どこが悪いの?ってくらいな感じなんだけど、片足引きずって杖ついているんだよね。そう言う人が山ほどいるの。とにかく変な病院だったよ。そこに入院させられてどうなっちゃうかわからなかったから、1週間後のヨーロッパ行きの飛行機もホテルも全部キャンセルしたんだよ。骨は折ってないけど、えらい損失だったよね。